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マーケティングLab

2020.03.13

【後編】「安易なEDLP化」への警鐘~なぜ多くの小売業はEDLP戦略を採用したがるのか?

前編では、「安易なEDLP化」についての心配や懸念を中心にお話してきましたが、改めてEDLPの是非について問われれば、人件費や販促費の統制、現場作業の単純化/省人化、NBメーカーとの原価改善や直取引などといったローコスト経営を徹底できるのであれば、採用すべきとお答えします。
ただ、協業パートナーであるNBメーカーに一定の原価努力を強いるのであれば、小売側も徹底したローコスト経営が求められますし、協業における互いの切磋琢磨により、コスト改善に継続して取り組む姿勢が大事になるでしょう。ある程度の“割り切り”も重要で、品揃えの偏りや欠品など機会ロスを顧客に許容いただく代わりに、商圏内最安値を保証し続ける必要があります。

事実、OKストア、イオン/ザ・ビッグ、ロピア、ベルクなど、ローコスト経営/EDLP化により圧倒的なコストリーダーシップ戦略を展開し、業績を伸ばしているスーパーマーケットも存在します。節約意識がますます高まる中で、EDLPが集客力のある優位な競争戦略であることは間違いありません。価格を求める消費者にとっても、一物一価の安心感を提供することが可能になります。

一方で、商圏内の生活者/消費者の支持を広く集め、取引先との協業で価格以上の価値訴求を戦略のベースにするのであれば、EDLPではなくHigh&Low政策に取り組むことをお勧めします。繰り返しになりますが、“安易なEDLP化”はかえって利益を低下させ、さらには顧客流出を招く危険性をはらんでいるからです。

High&Low政策を実施する場合、価格はもちろんのこと、便利さや顧客サービスの充実といった価値をバリューチェーン全体で戦略/戦術に組み立てつつ、upper class/middle class/lower classのすべての価格ニーズに対応するのを徹底すること。そして、顧客の願望を全方位で捉えたマーケティング戦略を、流通構造のすべてのプレイヤーとの協業の中で描くことが重要です。EDLPのように、ターゲットを見据えて小売側が消費者を選ぶ戦略とは異なり、できるだけ広く消費者に選ばれる小売でなくてはなりません。

なお、High&Low政策におけるKPIは利益率よりも利益額、客数においてはユニークユーザー数とその来店利用頻度を高めていくことに軸足を置かれると良いと思います。
とはいえ、今の人口減少下でユニークユーザーの確保は容易ではありません。前述のとおり他店から顧客を奪うことも難易度は高いのですが、一度流出した顧客を再び来店利用に繋げるのはさらに至難の業。であれば既存顧客の来店頻度を増やし、コアユーザーの事業への参画意識を高めながらファン化を醸成する戦略が有効となるでしょう。コアユーザーの支えを得ながら、いかにライトユーザーの利用頻度を高めることができるかがポイントとなります。
加えて、節約意識が高まる中で商品単価を上げることは容易ではないため、買上点数やサイズアップを図りながら客単価を引き上げることも考えなくてはいけません。単に品揃えの幅を拡げてもカニバリを起こすこととなり、点数は増えません。また、EDLP化の部分で触れたとおり、品揃えを拡げるということは在庫リスクに加えて、品出しなどオペレーションコストの引き上げを招くことにもなってしまいます。

そこで提案ですが、新機軸のカテゴリを拡げることで他店との差別化を図りつつ、点数を引き上げることを考えてみてはいかがでしょうか。カテゴリの拡がりを評価する際には、データコム(株)の清原和明氏が提唱する『カテゴリスコア』が大変参考になります。
この考え方は、“ひとり当りの購買カテゴリ範囲を増やす”ことを目的に数値化された指標です。同一チェーンにおける店舗比較を同基準で評価することが可能となり、購買カテゴリ範囲の店ごとバラツキをパターンごとに類型化することができます。限定されたカテゴリ利用店舗を把握、その理由を捉え改善につなげていくことができますので、とても参考になる指標となるはずです。

カテゴリ創出の事例としては、例えば私がかつて在籍していたコープさっぽろでは、「アレルギー配慮商品コーナー」や「エシカル消費(人や社会、環境に配慮した消費)コーナー」など、新機軸カテゴリや商品テーマを群で設定することにより、新たな消費機会の創出に取り組んでいました。
他にも、缶酎ハイとハイボール缶を「RTD」(ready to drink=蓋を開けてすぐそのまま飲める飲料)の括りで展開するとカニバリを起こしてしまいますが、「ハイボールコーナー」としてRTDと別に設置するだけでカテゴリをひとつ増やすことができます。新機軸のカテゴリは消費者の来店理由に繋がりますので、来店頻度にも寄与してくれるはずです。

High&LowやEDLP議論のその先には、ダイナミックプライシングの考え方もあります。すでに大手家電小売店が先行して実施しているダイナミックプライシングは、需給バランスに応じて適正価格を導き出してくれるのがメリットですが、反面で顧客への平等性を失うデメリットもあり、まだまだ検証の余地も多く残されています。
また、リアル店舗の場合は電子値札の導入がセットとなるため導入コストの問題もありますが、顧客目線でもその視認性など改良すべき点も多々あります。ただ食品流通において今後間違いなく導入が進み、徐々に事例や成果が報告されてくることになるでしょう。ぜひ注目しておきたい価格戦略のひとつです。

ダイヤモンドリテイルメディアで先日、英小売最大手であるテスコ傘下のダンハンビーが米国でグロサリーリテーラーを対象に実施した、「好きな小売業インデックス2020」の紹介記事が掲載されていました。その中で、ダンハンビーのギオーム・バクーヴィエCEOは、「自分たちの顧客が誰で、なぜ来店するのか、何が来店のために大事なことかを理解し、そのためにどんな強みを持たなければならないかを理解している。必ずしも万人受けしようとしていない。」と、厳しい環境下において結果を築いている優れた小売業を評価しています。
また誌面では記事の結びとして、「成功するための道は1つではなく企業によって異なるものであり、それぞれの勝ち方がある」との見解を示されていましたが、全く同感です。日本のスーパーマーケットのHigh&LowとEDLPのハイブリッドモデルは、結果として差別化要素のないコモディティに向かっているように感じます。

飽和状態の市場の中でスーパーマーケットが生き残るための戦い方は、「揺るがない顧客の支持」であることは間違いありません。カテゴリの創出やフォーマット/オペレーションのゼロベースからの見直しなど、既存の枠にとらわれない柔軟な変化への対応に加えて、High&LowであれEDLPであれ、その本気度と徹底度が顧客支持を集めるためには必要不可欠であると私は考えます。
そして組織(バリューチェーン)全体がその戦略を十分に理解し、取り組みを日々強化・進化させていくため、社員教育を含めた継続的な啓蒙活動にもぜひ取り組んでいってほしいと思います。

当記事の前編は下記よりご覧いただけます。

【前編】「安易なEDLP化」への警鐘~なぜ多くの小売業はEDLP戦略を採用したがるのか?

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この記事を書いている人
米田敬太朗 / 調査分析部 部長
生活協同組合コープさっぽろでマーケティング実務に携わり、2017年にマーケティング・グラビティに入社。POSデータやパネルデータ分析に基づいた小売業界の戦略立案に取り組む。

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