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マーケティングLab

2020.03.05

【前編】「安易なEDLP化」への警鐘~なぜ多くの小売業はEDLP戦略を採用したがるのか?

厳しい局面を迎えているスーパーマーケット

2019年、日本のスーパーマーケット全体の総売上高は全店前年比0.1%減と、2011年以来初めて前年を下回る結果となりました。また、スーパーマーケットの倒産企業数は過去最大数となり、業界を取り巻く環境は本格的に厳しい局面を迎えていると言えます。

さらにコンビニエンスストアにおいても店舗数は前年比0.2%減となり、2005年以来初めて減少。店舗売上高では全店で3ヶ月連続のプラスとなるも、既存店は3ヶ月ぶりに0.3%のマイナス、来店客数は全店・既存店ともに3ヶ月連続のマイナス(全店:-0.6%/既存店:-1.1%)と、こちらも厳しい状況です。

こうした現状の理由としては、どの企業も利益構造の中で経費が大きく上昇、特に人件費が高騰し続けていることが最大の要因でしょう。コスト削減のために販促費を抑制したくても、競争の激しい環境下においては限界がありますし、さらには2019年10月の消費増税やキャッシュレス還元策なども大きく影響していそうです。

ただ、中にはしっかり利益を確保している企業もあります。例えば惣菜を軸にした生鮮の強化、PB(プライベートブランド)構成比のアップ、NB(ナショナルブランド)の原価改善、グロサリーの売場縮小などの施策に取り組むことで利益構造を徹底的に見直し、経費増をしっかりカバーできた企業ほど業績がよく、利益を確保しているという構図です。

「安易なEDLP化」を進めるところが増えている?

先日、某調味料メーカーの営業担当者にお会いする機会があり、その方がこんなお話をされていました。

「最近の小売り企業はグロサリーの売り場を減らし、安易にEDLP(Every Day Low Price)化や低価格化を推し進めるところが増えており、価格のみの販促に限界を感じている。価格を下げたからと言って、不要な商品を2個も3個も買うような世の中ではなく、日替わりチラシに偏った販促から脱した新しい売り方を模索している」

この中で特に気になったのが、「安易なEDLP化」というご指摘です。おっしゃるように、今トレンドとなっているスーパーマーケットの戦略はEDLP化に象徴されるローコスト経営ですが、人件費や販促費のカットなど経費削減で大幅な改善が進んでいる企業は少なく、結果としてNBの原価改善による利益確保が中心となっています。

粗利が削られてしまうNBメーカーはその対策として、新機軸の商品開発とともに既存品の新しい売場や新しい売り方を開発する必要に迫られ、さらに生産計画や物流の効率化などSCM(サプライチェーン・マネジメント)の見直しを求められています。また、サブスクリプションによる直販の動きなども実例が出てきました。

EDLPは“徹底”したローコスト経営のもとで成り立つ

こうしたEDLP化への流れは何もメーカーだけに影響する問題ではなく、小売にとっても相当の覚悟が伴う判断であることを認識する必要があると感じています。日本の小売業はこぞってEDLP化を進めつつも、High&Low(一定期間値下げした商品をチラシなどを使って広告し、期間終了後に元に戻すという価格販促)とのハイブリッドを採用する企業が主流ですが、EDLPの本質とは“徹底”したローコスト経営のもとで成り立つもの。“安易”な取り組みでは、「粗利率」を改善したとしても逆に「粗利額」を低下させる恐れもあり、その本気度・徹底度が問われます。

しかし、なかなか徹底的なローコスト化を実現できていない背景としては、伝統的な商流を見直しきれていないこと、ドラスティックな人件費削減ができないこと、チラシに代わる有効な販促施策を見出せないこと、惣菜売場の拡大による調理工数の増加及びフードロス増加などが挙げられるでしょう。このため、期待どおりに利益率、利益額を上げることが困難になっているのが現状です。

さらに、スーパーマーケットだけでなくコンビニ、ドラッグストアを含めた小売共通の課題として、「客数減」も深刻です。人口減少と過剰店舗による市場の飽和と併せて、EDLPはこれをさらに加速させます。「毎日安い」を保証することにより、折込チラシの削減やプライスカードの設置作業などの経費を削減することができるのはEDLPのメリットですが、その反面、これは顧客と小売を結ぶ接点のひとつを無くす選択でもあります。
チラシの削減により短期的には利益確保が可能かもしれませんが、チラシを頼りに来店されるお客様も少なからずいることは押さえておかなければいけません。

さらにEDLPでは、売れ筋上位の低価格品に絞り込んで売場を拡充することで、品出し等のオペレーションコスト削減につながるのがメリットと言われますが、反面でニーズの異なる顧客にとっては買いたいものがない店舗と認識され、他店への流出を招く場合もあります。ローコスト経営によるお客様接点の削減や商品の絞り込みは、客数減を助長する恐れもあるのです。

もっと言えば、そもそもEDLPは「いつでも安い」ため、「今日どうしても買物に行かなければいけない」といった動機を喚起できず、来店頻度をも低下させる恐れがあります。自店の利益が一時的に確保されたとしても、商圏内における顧客支持を低下させることによる中長期インパクトは大きいでしょう。他店から顧客を奪うこと以上に、一度流出した顧客を再び来店利用に繋げるのは至難の業です。

オペレーションコストの削減が中途半端な上、商品の絞り込みも滞ってしまうと、売れ筋の機会ロス、売れ筋以外の在庫リスクの両方を抱えてしまい、粗利率はますます悪化します。客数も減ることで売上を落としてしまえば粗利額をも確保できなくなり、結果として利益確保の戦略はNBメーカーの仕入れ原価を削減することが主流となってしまうわけです。

EDLP化がNBメーカーとの協業を歪ませる懸念も…

EDLP化による原価見直しはNB商品を対象に行われることが多く、少しでも粗利を確保したいNBメーカーの中には小売との直取引などを検討するところも出てくるかもしれず、その場合は中間流通に及ぼす影響も考えておかなければなりません。

そもそも顧客支持はEDLP化によって価格感度の高い顧客に偏り、品質や機能、嗜好性、こだわりなど価格以外の価値を求める層を排除することになります。生活者/消費者へのアプローチが全方位でなくなるため、当該チェーンとの取組意義を見失うNBメーカーが現れる恐れもあり、バリューチェーンにおける協業の在り方までが歪む事態も想定されるでしょう。

これは決して“懸念”でなく、事実、大手NBメーカーの中には専任の営業担当者を配置せず、取引のすべてを卸売業に任せるケースや、AI技術を搭載した仮想営業マンによる電子商取引を本気で準備する企業まで出てきているようです。

スーパーマーケットは今後こうした状況にどう対応すべきなのか? 次回の後編では改めて私からEDLPについての考えと、提案したい戦略についてお話したいと思います。引き続き、ご覧いただければ幸いです。

当記事の後編は下記よりご覧いただけます。

【後編】「安易なEDLP化」への警鐘~なぜ多くの小売業はEDLP戦略を採用したがるのか?

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この記事を書いている人
米田敬太朗 / 調査分析部 部長
生活協同組合コープさっぽろでマーケティング実務に携わり、2017年にマーケティング・グラビティに入社。POSデータやパネルデータ分析に基づいた小売業界の戦略立案に取り組む。

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