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マーケティングLab

2019.09.27

着々と進行する米国版OMO。日米の違いはどこに?【視察レポート】米国スーパーマーケットの店頭からvol.4

1)潮流 ~ 店舗の垣根を超えた「顧客体験」の追求と競争:米国版OMO

以前の記事で紹介したように、私が視察した米国スーパーマーケット各社で、対お買い物客向けの直接的なコミュニケーション手段としてのデジタルへの取り組みについては、日本で行われていることと比較して特段に目立つものは見当たりませんでした。
むしろ経営が注力しているのは、大規模なPB品の展開を含む独自の品揃え強化や店舗設計、訴求メッセージや施策の絞り込みのためのメーカーを巻き込んだ体系的なEDLC(Every Day Low Cost)を実現する施策など、各小売がターゲットと設定しているお客様にとっての品揃え/価格訴求力(単なる安売りではなく、求めるものと価格が見合っているかどうかのバランス)を高めるための施策を着実に実行することであるように感じました。

店内商品の大半を自社PB品が占めるTrader Joe’s。目に見えるデジタル施策は一切ありませんが、独自性のある商品の品揃えと対人コミュニケーション施策、従業員のモチベーションを引き出す運営に重点をおき、全米486店舗、売上高1兆2000億円、食品小売りとしては全米10位の巨大チェーンです。Forbesが選ぶ「America’s Best Employer 2019(アメリカ最良の雇用企業ランキング)」では大企業部門(従業員5000名以上)で堂々の1位に輝きました。

店内で目に見えるようなデジタル施策、店内メディア化施策については過去に様々なテクノロジーがテストされたものの、現在も大規模に採用されているものはあまり存在せず、対顧客デジタルコミュニケーションの主眼は「顧客がお店の外にいるうちから如何に接点を保つか」「顧客がお店に来る前にどうやって選んでもらうか」にデジタル投資の重点が移行しつつあったようです。これは、車でどこへでも買い物に行けるという米国特有の買い物事情にもよるのかもしれません。

また、各社ともにAmazonの攻勢にさらされているものの、ネットスーパーやEC重視の施策はあまり取っておらず、リアル店舗の魅力を高めて来店してもらうこと、そして来店したときに快適な買い物体験を楽しんでもらうため、一定の目的買い商品については事前に注文しておける「In-storeピックアップサービス」の拡充などに取り組んでいることが窺えました。これに伴い、大手の小売りでは「ピックアップカウンター」が設置されている店舗が増えており、ピックアップサービスの利用者は来店してすぐに注文していた商品を受け取ることができるようになっています。

既に競争の焦点はピックアップサービスの有無ではなく、店外でオーダーしてから店頭でピックアップして帰るまでのスピードや利便性へとシフトしており、その最たる例の1つが、Walmartで導入された「ピックアップタワー」です。従来のような有人カウンターを通すことなく、下記写真のようなタワーにアプリをかざすだけで、すばやく商品を受け取ることが可能です。

ウォルマートのピックアップタワー。アプリをかざすだけでスピーディに商品が受け取れます。

こうした状況から大まかに感じたのは、米国における現在のデジタル施策の適用ステップは「地道だが正攻法」だということです。
すなわち、まずは基礎となる各種データインフラの整備を行っており、それには画像データを含む商品マスター/棚データ/在庫データ/店舗属性データなどが含まれます。これらの整備の目的は第1にバックヤード業務の効率化や店頭の品揃えの充実など店舗オペレーションのクオリティを上げることであり、第2にEC対応/ピックアップサービス対応業務などの効率化を通じて、お買い物体験全体のプロセスにおいて顧客満足度の向上を図ることが目されているようです。

そして、これら整備された基盤データの上に、買い物に関わる顧客の志向や意思を事前にキャッチするための接点としてのスマホアプリなどのデジタル媒体と、それを通じた個人のアクションデータの蓄積が加わってきています。
これらの分厚いデータセットをフル活用することでレコメンドサービスや検索サービスなどの最適化を行い、顧客体験が充実する独自のループを構築していく。このようなステップを着実に踏みながら、デジタル活用の範囲を拡大しつつあるように感じました。

基盤となる店舗・商品に関するデータを整備することで、お買い物客向けサービスでのデータ活用も容易になります。

また、必ずしも「デジタル」だけでフロントサービスを提供することには拘っておらず、自社サービスのコアバリューとターゲット顧客が何なのかをしっかりと定義した上で、必要な部分ではしっかりと対人コミュニケーションや店舗設計、品揃え、価格戦略など、アナログ/感性に訴求する施策に投資していることも感じました。お店にとってデジタルは目的ではなく、お客様に何を提供したいかを出発点として考えたときに必要に応じて取る手段である。そのことを強く感じたと言えるかもしれません。

2)「お買い物リスト機能」に見る日米の大きな違い

個々のデジタルサービス/機能のあり方にも、データ活用レベルの違いによって日米で大きな違いが生まれているように感じました。
具体的には、日本のスーパーマーケット各社が提供する主なデジタルサービスは機能別に独立していることが多く、かつ静的な情報の一方的な配信を前提とするものが主体であるのに対し、米国小売が提供していた各種デジタル施策は概ね「データ」を介して連携し、状況に応じて情報がリアルタイムに変化しうるような設計がされるトレンドにあるということです。それを端的に表すのが「お買い物リスト」の作成機能でした。

デジタル媒体の活用の考え方の違い。左が日本のアプリでよく見かけるもの。右が米国のアプリでよく見かけるもの。

日本でも店舗アプリなどで「お買い物リスト」機能を提供している例は多くありますが、それらのリストの大半は単なるテキストメモであり、例えば「りんご」をリストに追加しても、その「りんご」がお店の価格情報や過去の購買履歴と連動して何かの情報をユーザーに提供してくれるわけではありません。

一方、アメリカで提供されているアプリの「お買い物リスト」機能では、「りんご」を追加すると実際に販売されている商品情報や過去購買履歴と連動し、具体的にどの「りんご」を購入しようとしているのか、それがいつもよく行くお店やネットスーパーで取り扱いがあるのか、価格がいくらで売られているのか、売り場はどこなのか、さらには併せ買いしたほうが良い関連商品やおすすめ商品はどのようなものがあり、それらが購入者にどのように評価されているのか(レビュー)、こういった情報が提供されるようになっている事例を複数見つけることができます。
当然ながら、これら全てを実現するにはしっかりデータ基盤が整備されていなければ不可能です。

単なるテキスト情報である日本型のメモ機能(左)に対し、米国型(右)は購買履歴などとも連動させることで多様なレコメンドサービスなどに繋げられるほか、ユーザーによる機能の利用メリットを高めたり、購買コンバージョンを測定することも可能です。

どちらが正解なのかということは、店舗側が機能提供の目的をどこに置くのかによって異なり、一概には言えません。
しかし、前者(日本の例)には手書きメモと比較してユーザー利便性がほとんどなく、現に小売各社のアプリで「お買い物リスト機能」が顧客から多く利用される例は極めて少ないのではないでしょうか。
さらに、単なるテキストメモ情報としての「りんご」は商品データと紐づいていないため、リスト追加から実際に購買に至ったのかを計測することができません。つまり買い物リスト機能の「効果」がわからないのです。

一方、米国の例ではリスト機能を使うことがお買い物時のしやすさや新しい発見につなげる可能性を生み出しています。商品データと連携しているため、リストを利用した人が購買に至ったかどうか、どういう販売チャネルを利用して購買したのか、そういった効果もID-POSデータから把握できます。また、お客様が店舗に来る前から、どういった商品を買う予定で、どういった商品に興味を持ったのかといったデータを捕捉することが可能ということでもあり、そのデータを来店時のおもてなしサービスにつなげることも可能でしょう。
単なる機能提供に終わらず、発展性・事業性のある付加価値サービスにつなげていきたいと考えるのであれば米国のようにサービス設計することを考慮する必要がありそうです。

Ralphsが提供するアプリの買い物リスト画面。追加した商品に対する様々な関連情報やお買い物オプションが提示されています。

今回の「米国スーパーマーケットの店頭から」vol.4では米国で感じたデジタル投資の位置づけ、日本で提供されているサービスとの設計の違いなどについてお伝えしました。
次回のvol.5ではいよいよ最終章として、これまでお伝えしてきたようなトレンドを踏まえながら、これからの小売におけるデジタル活用戦略の中で、当社の「ショピモ」のようなソリューションが果たしうる役割についての考えを少しご紹介させていただければと思います。どうぞ引き続きご覧いただければ幸いです。

 (次回へ続きます)

※当記事は5回連載です。
Vol.1はこちらからご覧いただけます。
Vol.2はこちらからご覧いただけます。
Vol.3はこちらからご覧いただけます。
Vol.5はこちらからご覧いただけます。(近日更新予定)

この記事を書いている人
中里昇吾 / ショピモ事業部 部長
サイバーエージェント、マイクロアドなどを経て、2017年にマーケティング・グラビティへ入社。現在はショピモ事業部のリーダーとして、営業・マーケティングチーム全体を束ねる。さらに個人でも、「荒川102」という地域Webメディアを主宰するなどマルチに活躍中。

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