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マーケティングLab

2019.05.14

【連載Vol.6(最終回)】デジタルはスーパーマーケットを救うのか?「客数減」「人手不足」への処方箋

人手不足へのアプローチ~伝統的なリアル店舗はAmazonに勝てるのか?

Amazonの脅威を発信する多くの声とは反して、現実として食品のオンライン取引規模はまだまだ小さく、既存のリアル店舗と戦える状況にはありません。また、Amazonのオンライン取引における生鮮鮮度維持対応として、野菜はカットし成長を止めることで鮮度を維持、肉や魚は真空パックを考えているようですが、いずれもコスト高な作業が伴うようです。
優遇された本国での展開とは異なり、海外展開においては物流ネットワークの構築や物流費高への対応も迫られ、Amazonの省力化の取り組みは設備やオペレーションコストをどのように改善すべきか、まだまだ研究段階にあるように思います。需要拡大とともにコストやロスをどのように削減していくか、他のオンライン商材とは異なり食品取扱における独特の課題は多いようです。

早々に食品業界に切り込むにあたり、既存のリアル店舗はまだまだAmazonにとって脅威だと私は思います。オンライン取引だけでは勝負ができないだろうと、アメリカの「ホールフーズ」という業界インパクトの強い小売を買収することでAmazon流リアル店舗戦略を構築し(「ホールフーズ」の特徴は高級かつオーガニックを中心とした生鮮品の強さにあり、その商品政策や商品管理に関わるオペレーションノウハウは魅力的)、さらに「Amazon Go」で得た省力化の知見をフル活用したオフライン取引により食品取引のシェアを伸ばしていくこと。それができなければ、既存のリアル店舗に対してAmazon戦略による影響力を持つことができないと考えているのではないでしょうか。

また「ホールフーズ」や「Amazon Go」に加え、脅威となり得るリアル店舗フォーマットの開発にも乗り出すことと思います。食品のオンライン取引で独特のオペレーションを確立し、それに生活者が慣れ、さらに生活者の願望を叶えられるようになる日も近いのかもしれません。
ただその場合でも、Amazonはオンラインのみで戦いを準備するというよりは、オンライン/オフラインの両チャネルを巧みに操り、生活者との接点を多次元に獲得することを考えているように思います。そのときAmazonは、いよいよ食品流通の主役に躍り出ることになります。

人間主体の複雑な店舗オペレーションや、生鮮品の独特の商流(受発注・出荷・在庫保管・販売管理など取引関係の流れ)が既存リアル店舗の特長であり、生活者もまたその買物行為に慣れ親しみ、直接の取引だからこそ得られる安全や安心がAmazon戦略を阻む要因になっているとすると、まだまだ伝統的リアル店舗が長年培ってきたオペレーションを乗り越えるには至らず、Amazonが克服すべき課題は多いと言えます。
だからこそ、リアル店舗を自ら運営することで食品流通の伝統的オペレーションを詳細に把握するとともに、その課題を捉えることで既存のリアル店舗の弱点を明らかにし、商機を生み出そうと考えているのではないでしょうか。

食品流通業界において、現在はまだAmazonにとって既存リアル店舗は脅威であり、その伝統的なオペレーションをなかなか崩せずにいますが、今のまま既存のリアル店舗がAmazonのオンライン/オフラインの取引を軽視した場合、既存のリアル店舗がAmazonに飲み込まれることもあるかもしれません。Amazonは今まさに徹底したリアル店舗及び省力化の研究により、本気で食品取引の主役になろうとしています。既存のリアル店舗もウォルマートのように、Amazonの脅威に対して打つべき手を早急に検討しなければ、本当に主役が取って代わられる可能性が否めません。

多様な生活者の願望をいかに叶えるか、その思いの強い企業が生き残る

ただ、私にはいくつか思うところがあります。省人化や省力化はどこまで進むのか。また、どこまで進めるべきか。その判断にあたり、念頭においておかなければならないことがあると思うのです。

ひとつめは戦略の中心に“生活者”を据えること。多様な生活者の願望をいかに叶えるか、その思いの強い企業が生き残ると私は思います。企業側がやりたいこと、出来ることをやみくもに提供するのでなく、生活者の要請にいかに応えるかの視点が大事であり、お仕着せでないということです。

ふたつめに大事なことは徹底的な省人化、省力化の一方で、徹底的な“従業員”への心配りです。心配りとは待遇面のことだけでなく、組織や人事(評価を含む)、教育、キャリア形成、多様な雇用形態など、従業員が心地よく働くための環境を充実させること。戦略の中に従業員がいるのでなく、従業員により戦略が展開されていることを忘れてはいけないと私は考えます。
さらにテクノロジーありきのデジタル活用でなく、店舗作業工程を作業者目線で組み立てる中で、作業者の支えとなるテクノロジーやデジタル活用を取捨選択し、その能力を十分に発揮させる仕組みづくりと教育が重要となります。

リアル店舗は人にしかできないサービスを

 消費者理解・顧客第一主義を考えたときに、私の個人的意見ではありますが、各食品小売が今こぞって取り組んでいる「セルフレジ/セミセルフレジ」はかえって顧客離れを助長するのではないかと心配しています。

私の考えを先にお伝えしますと、お客様には決済ではなく商品スキャンをお願いしつつ、最後に対価を受け取る行為については店舗スタッフで対応できないかと考えています。買物の最後に、「直接のお礼と次回来店を促す機会」を人と人との対話(生協宅配のようなFace to Face)によってつくることこそ、店舗と顧客の良好な関係性を築ける方法ではないでしょうか。食品小売のリアル店舗が、生協の宅配やカウンセリングなど接客が伴うドラッグストアを脅威と感じるのならなおさら必要なことのように思います。

レジ作業の観点からも、商品スキャンと会計作業とを天秤にかけた場合、圧倒的に商品スキャンの方がコスト高です。セミセルフレジの導入を検討するのなら、ぜひ「カートPOS(カートに取り付けたスキャナで商品バーコードを読み取るシステム)+会計スタッフ」の組み合わせを提案したい。

買物の最後にその対価を直に受け取ることで「○○さん、雨の中いつもご利用ありがとうございます。明日はお魚がお買い得です。スタッフによるマグロの解体ショーもありますから、ぜひまたご来店くださいね」と、人による温もりあるお礼をすることが可能です。イメージとしては、航空会社の整備員が今まさに飛び立とうとしている旅客機に向かって「Good Luck!」と手を振る光景であり、その方がお客様との距離感もグッと縮まるのではないかと思います。

 一方で、対面で支払いをすることを面倒だと感じるお客様がいることも事実です。そのために、電子マネーのようなキャッシュレス支払いに対応したサービス設計も合わせて考慮する必要があるでしょう。電子マネーはまとまった料金を前払いで受け取ることで、現金商売かつ薄利な小売にとっては大きなメリットがありますし、顧客の固定化(流出防止)にも繋がります。

またお客様にとっても、特に高齢者はつり銭のやり取りを鬱陶しく感じている(レジ処理に時間が掛かることで、次に待つお客様に対するプレッシャーを感じている)こと、またクレジットカードを持たない高齢者も多く、電子マネーの快適な決済はお客様にとってのメリットも大きいはずです。
さらにクレジットカードを待たない高齢者や、店舗に出かけることが困難な顧客への対応として、ECでも活用できるデビットカードの導入もまた必要な議論と考えます。

こうしたレジサービスだけに限らず、店舗オペレーションの中で「本当に人がすべき作業やサービス」と「デジタルで補完もしくは代替すべき作業やサービス」は何なのかをしっかり見極めること。それが店舗のデジタル化にとって最も重要なポイントであり、私たちマーケティング・グラビティもそれを各店舗で判断できるようなデータや情報を提供しながら、デジタル化の支援をしていきたいと考えています。

最後に~まとめに代えて

本稿では、流通業界の本質的課題として「客数減」「人手不足」を取り上げました。課題解決に向けて、われわれは流通の構造の中で何ができるのか? また一方で、小売やメーカー、卸売は何を準備しようとしているのか? 引き続き考えていきたいと思っていますが、キーワードは人であり、「生活者視点」「従業員視点」での組み立てがポイントとなるでしょう。

当社の掲げるバリューのひとつは「生活者視点」であり、その出発点は生活者の豊かな生活や買物体験を実現させることにあります。私見ではありますが、従来の流通業界はチェーンオペレーションというセルフサービスを追求する過程で、サービスが無機質かつ同質化し、お客様を見失ってしまったのではないか? 作業の平準化/標準化によって従業員を歯車のひとつとして扱ってはいないか? チェーンオペレーションをベースにしながら生活者のため、従業員のため、そしてそれが地域のためになることが、地域に生きるリアル店舗の使命だと気づいた経営者のいる企業から成果が出始めていると感じています。

コンビニやECに加え、ドラッグストア・ホームセンター・外食など異業態の台頭でスーパーマーケットが追い込まれている中、輝きを失わずにいる小売企業を目の当たりにすると元気や勇気をいただけます。本当にこの厳しい時代の中で、流通業界を力強く支えている小売経営者や小売企業、流通構造を担う各プレイヤーを尊敬します。そして、勉強になります。

われわれに何ができるか、当社バリューを発揮しながら全力で流通構造の一員として寄与したい。そして何より生活者に添いたい。当社社員一人一人の思いです。
同じ思いの皆様とぜひ協業させていただき、流通業界の本質的課題に目を逸らさずにお取り組みさせていただきたく、引き続きご交誼のほどよろしくお願いいたします。

(了)

 ※当記事は6回連載です。
Vol.1はこちらからご覧いただけます。
Vol.2はこちらからご覧いただけます。
Vol.3はこちらからご覧いただけます。
Vol.4はこちらからご覧いただけます。
Vol.5
はこちらからご覧いただけます。

この記事を書いている人
米田敬太朗 / 調査分析部 部長
生活協同組合コープさっぽろでマーケティング実務に携わり、2017年にマーケティング・グラビティに入社、POSデータやパネルデータ分析に基づいた小売業界の戦略立案に取り組む。

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